『96時間/リベンジ』(2012)

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    誘拐された家族を助けた父親は元CIAの凄腕スパイだったシリーズ第2弾。監督は勿論リュック・ベッソン。今回もリーアム兄貴が悪者をぶっ殺しまくりの4日間です。

    オープニング。イスラム系の人々による葬儀が行われている中、一人の白人が呟きます。「あの男に殺された」

    そう、今回は前作が終わってから間もなくして幕を開けます。平和な生活に戻ったはずの元CIA、現・雇われボディガードな中年ブライアン

    前作はオープニングで泣き所がありましたね。娘の誕生日に子供っぽくて「ちょっとソレは古いんじゃね?」というカラオケセットをあげてしまう父親。父親の前では嬉しい素振りをするも、母の再婚相手である富豪の父親にサラブレッドをプレゼントされて大喜びする娘。カラオケセットは机の上に寂しく置かれたまま、リーアム・ニーソンの哀愁漂う顔が映る・・・・。これはねえ、泣きますよ。

    元妻のファムケ・ヤンセンが相変わらずエロい!変わらないですねえこの人は。これはヤリたry
    ただ今作では再婚したスチュワートとの関係も破綻している様子。男を見る目がないのか何なのか分かりませんが、キムはよくグレないなあと感心します。しかも割と物分りが悪いので、ちょっとイライラするんですよねえ。

    今回はキムに彼氏がいるんですね。ジェイミー君というイケメンです。2人でイチャついてる中に父親登場です。無音で近づくガタイ抜群の父親ですよ。気のいいお父さんに見えますが、僕ならビビりますよ。実際にリーアム・ニーソンが彼女の父親だったときの絶望感は凄まじいでしょうね。ピーター・バーグ監督のバカ映画『バトルシップ』では、主人公の彼女の父親にして海軍のお偉いさんの役でしたけども、死を覚悟しなければならないでしょう。2秒後にはシメ落とされてる可能性大ですから。

    今回もきっかけはフランスで起こります。前作で協力してくれた刑事が、例のアルバニア系の人身売買組織にブライアンの居場所を問われ、ボッコボコにされて尋問されます。なんだかんだで居場所が割れてしまいます。で、ブライアンが仕事で訪れたイスタンブールに2人も来ることに。でもそれを察知した敵が刺客を送り込みます。観光を楽しみながら家族の中を深める3人がロビーで別れ、部屋に戻るキム。バザールに向かう車中で異変に気づくブライアン。尾行を巻こうとするも失敗し、夫婦は拉致されて・・・・。

    今回も分かりやすい構図ですね。アメリカ・フランス×イスラム社会。伝統的な構図です。

    ただ今回はねえ、微妙でしたねえ。ブライアンの指示でキムが頑張るんですが、それも前半まで。あとは単純なリーアム・ニーソンの無双モード。・・・・改めて観てみると、リーアム・ニーソンのアクションは曲線的で「よっこらしょ」感が出ちゃってるんですよね。さすがに歳かなあ。圧倒的な強さは感じないですよね。かといって派手さもない、非常に地味なアクションだなーと思いました。状況判断も凄いんですけど、ワンパターン化してきたなという。『トランスポーター』シリーズにおける「ワンパターン化」というリュック・ベッソンの悪いとこが出てきたなって感じですね。

    評価はB

    シリーズものとしては、これ以上は続かないだろうと思います。

     

    『マイヤーリング』(1957)

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      オードリー・ヘプバーン主演で唯一の未公開作品。実在したオーストリア皇太子ルドルフとマリー・フォン・べッツェラの悲恋(マイヤーリング事件)を描いた作品であり、クロード・アネの小説『うたかたの恋』を原作としているテレビ映画です。監督はアナトール・リトヴァク。

      全米で放送されたのも一度だけという正しく「幻の作品」であり、勿論ソフト化はされていません。公開されているのも日本だけで、なぜ今なのか?という疑問が浮かびますが、これはよく分かんないんですよね。21周忌という中途半端な時期なのでますますよく分からん・・・・。でも普段見れない作品を上映してくれるのはありがたいですから、どんどんやって欲しいですね。共演は当時、実生活で夫婦だったオードリー・ヘプバーンとメル・ファーラー。

      19世紀末のオーストリア、ハプスブルク=ロートリンゲン家の後継として周囲に期待されつつも、当時抑圧されていた自由主義に傾倒しているオーストリア皇太子のルドルフは、生まれた時から監視されている自分の人生にうんざりしています。気まぐれに皇居を抜け出しては友人たちと一緒に逮捕されたりと反抗的な生活をしていましたが、いよいよ政略結婚させられます。愛の無い夫婦生活が嫌で嫌でしょうがない彼はある日、遊園地で一人の女の子と出会います。マリー・ヴェッツェラです。彼女はヴェッツェラ男爵の令嬢で、たまたま遊びに来たところ、母親とはぐれた様子。いたずらに近づいたルドルフでしたが、余りにも純粋なマリーのような女性は初めて。自分に近づく女は皆地位や金目当てだと思っているルドルフも、その心と美貌に惹かれます。楽しいひと時を過ごした後にお別れになりますが、後日来賓したバレエの会場で再会。ルドルフは運命めいたものを感じます。そして2人は愛し合うように。しかし政治と謀略に阻まれて・・・・。(以下ネタバレ)




      ・・・・劇中では全く描かれませんが、史実上、ルドルフは所謂スパルタ教育を受けていたようです。鞭打ちや冷水を浴びせられたりと、なかなか過酷なものだったようで、同情せざるを得ませんね。映画ではルドルフが放蕩息子のように描かれているんですが、実は不憫な皇太子だったんですよ。で、これは映画のラストにも大きく問題を残してしまう。この映画では、一貫して自分勝手な主人公のような印象を残すんですね。

      当時の勢力図では、帝国はビスマルクが統治していたドイツにべったりでした。ルドルフは自由主義を抑圧する帝国の政治や、ビスマルクの政策に同調できず、独自に外交を模索します。が、いくら一人で反抗しようが、メディアや警察に囲まれている以上、動きはバレるんですね。フランスやロシアへの働きかけが新聞で暴露されます。激怒した皇帝の命令で、ある夜のドイツ大使館のパーティでプロイセンの軍服を着るよう強制されます。いい加減に嫌気が差した彼は、マリーと共にマイヤーリングへ向かい、楽しいひと時を楽しんだ後にマリーを射殺後、自殺したんですね。今作では愛し合った末の悲劇として描かれていますが、史実ではちょっと違うようですね。事件当時、二人の仲はすでに冷め切っていたらしいのです。ルドルフは娼婦に入れ込んでいて、むしろその娼婦と心中したかったのに断られ、挙句に密告されて監視が強まったという背景があったとのこと。しかも暗殺説まであるんですよ。真相はどうなんでしょう。うーん、分かんないですねえ。

      いずれにしても今作は、ルドルフとマリーの悲恋を描いたメロドラマです。オードリー・ヘプバーンが殺されるというショッキングなラストで、個人的には非常に後味が悪かった。

      評価はB

      なぜ上映しているのかという理由も良くわかんないまま、消化不良で終わったかなあ。3幕構成も鬱陶しい。






       

      『華麗なるギャツビー』(2013)

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        フィッツジェラルドの不朽の名作、アメリカ文学における至高の一品を、バズ・ラーマンが映画化。

        観る前から、「ぜってー失敗するだろ」という予感しかしなかったことに加え、音楽に現代のヒップホップをぶっこんだという話を聞いて、嫌な予感は確信に変わったのでした。

        バズ・ラーマンのビカビカした画面は予告編見るだけでも疲れるので、作品を通しでちゃんと見たことないのですが、キャリー・マリガンちゃんが出るということで、これは観ておこうかなと。でまあ、やっぱり「コレはねえな」となりました。

        「混ぜるな危険をあえて混ぜる俺かっこいいいいい」というバズ・ラーマンに対する偏見が嫌悪に変わりましたね。


        オープニングからして「危険」な匂いがプンプンしますね。当時はまだまだ白人至上主義があったわけですが、いきなりJay-Zの曲です。違和感しかないですよ。大丈夫かよコレ!?と思ってたらだいじょばない。

        ・・・・最初の10分でわかりますが、フィッツジェラルドの文章を読んで想像する雰囲気とかけ離れた世界観なので、原作のファンでこの作品が好きな人っているんでしょうかね。とにかく派手。ビカビカです。頭が痛くなるほどのバズ・ラーマン感。3Dで観たら地獄でしょう。


        ウィルソン役のジェイソン・クラークは最高ですね。汚れたシャツがこんなに似合う人はいないでしょう。最近、彼は禁酒法時代の映画にわりと出てますね。『欲望のバージニア』での無骨な次男役も好きでした。今回はねえ・・・・かわいそうな役ですよ。

        主役のトビー・マグワイアは妥当なキャスティングでしょう。無表情なイケメンだから、いつでもシャブ中みたいな顔で合ってると思うんですよね。

        パーティシーンではビヨンセとJay-Zの曲がかかりっぱなしで、ジャズはどうでもいいドライブシーンくらい。音楽の繋ぎ方も意味がわからんのです。いきなり『ラプソディ・イン・ブルー』をブッ込んできたり。場面とリンクしていない音楽ってこんなにも合わないものなんだね〜と認識できるいい例でしょう。ヒップホップが邪魔でしょうがない。

        ディカプリオの登場シーンはギャグでしかないですよ!

        「僕が・・・・ギャツビーだよ(ドヤァ・・・・」ですよwwww花火噴水音楽パーンwwww

        ・・・・寒いわ!ボケ!後半のブチギレシーンもね!汽車ぽっぽですから!顔真っ赤でトマトみたいになってたよ。

        シャツのシーンも映像化するとこんなに寒いかね、というレベル。間も置かずに泣き出すデイジー。そう。この映画には間がないのです。カットが細かく、しかもギラギラしているのですごく疲れます。


        原作を読んで、「デイジーてめえブッ殺すぞ!」という気持ちになったものですが、キャリー・マリガンなら許せちゃうよねえ。レイチェル・マクアダムスとかなら大ッ嫌いだから良かったかも。歳行き過ぎか。


        ・・・・ギャツビーのテーマは「アメリカンドリームの失墜」と「秘密」、「頂点に立つ者の孤独」でしょうか。ですが、この作品では表現しきれていないですね。ディカプリオは逞しすぎるんですよ。加えて画に力があって、彼が秘めている脆さや弱さが滲み出てこない。死ぬ時まで派手ですからね。

        ただ、なんだかんだ言ってもこの作品はアメリカ文学の至宝なわけです。アメリカンドリーム、そしてアメリカの黄金期を象徴した作品ですからね。ケネディ一家もこの時代に禁酒法で成り上がったクチですね。最も象徴的なセリフは「ジェイは求めすぎたのよ」というデイジーのセリフでしょう。これは皮肉なセリフで、アメリカにも当てはまるセリフです。第一次大戦を勝利し、空前絶後の好景気を謳歌していた人々の破滅。そうそう、フィッツジェラルド自身も浪費癖が治らずに常に金に困っていました。栄光の20年代の後は作家としての成功もかすみ始め、その日暮らしの日々を送るように・・・・。彼もまた、頂点に立ち、失墜したアメリカンドリームの体現者なのです。世界恐慌を前に、アメリカが最も輝いていた20年代で最も輝いた男の生涯は、余りにも悲しいものでした。

        彼もまた、"The poor sonofabitch" だったんですね。

        拝金主義が負ける映画ってなんか好きになれない。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』みたいに突き抜けて欲しい。

        ジョーダン役のエリザベス・デビッキはお美しい・・・・。後半は空気だったけど。なんと僕の1つ上の23歳とか!おっとな〜ってかエロイねえ!ヤリたry

        評価はC

        観る価値あるのは助演女優2人のみ!



         

        『コンプライアンス 服従の心理』(2012)

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          オハイオ郊外のファストフード店。

          その日は前日に起きた冷凍庫の閉め忘れのせいで、材料が不足していたり、金曜日だったこともあり、忙しい日だった。

          店長のサンドラは、不真面目さが漂う店員たちをまとめながら、忙しい1日を乗り切るつもりだった。

          そこに1本の電話が入る。警察からの電話だった。

          「お宅の従業員の、ブロンドの若い子が客の現金を盗んだらしいんですよ」

          サンドラ「ブロンド?・・・・ベッキーですか?」

          店のバックヤードに呼び出されたベッキーは、否定しつつも、刑事と名乗る男の電話に出る。

          「私そんなことしてません」

          ベッキーは否定する。不真面目とは言え、犯罪をするような子ではない。周りからフォローが入るも、刑事は高圧的に質問をすすめる。

          ここまでで若干の違和感を覚える一同。

          「いつごろ到着されるんですか?」サンドラが質問する。当然の疑問だ。現場に来ない刑事なんて怪しすぎる。

          しかし次の一言で自体は急変する。

          「ベッキーのお兄さんの件もあるんですよ。麻薬取引に関与している容疑があり、ベッキーの家の家宅捜索をしています。」

          血相を変える一同。

          そして電話主の刑事の指示で、サンドラに副店長のマーティも加わり、身体検査が始まる。

          その後も電話越しの、一向に現場に現れない刑事による、電話越しの尋問は過激さを増していき・・・・



          とまあこんなストーリーで、ここから先はネタバレあり。




          町山智浩さんの「アメリカ流れ者」で紹介されていたこの作品。つっこみたいところがたくさんあるにもかかわらず、最後まで見るとすごく怖い。

          まず主人公のベッキーを演じるのは、ドリーマ・ウォーカー。この子は『グラントリノ』でクソ生意気な孫娘を演じていた女優だといえばお分かりいただけるでしょうか。鼻が低めのブロンド少女で、超生意気そうです(笑)

          映画の元ネタになったのは、実際にアメリカの30以上の州で、70件以上にのぼったイタズラ電話事件
          ストリップサーチ・いたずら電話詐欺。

          そう、この電話はイタズラ電話でした。刑事なんて真っ赤な嘘。電話の主は妻子持ちの一般的な白人男性。

          この作品を見て思い出すのは、『エス』や『エクスペリメント』、「スタンフォード監獄実験」、「ミルグラム効果」などですね。非日常的な環境下で暴かれる人間の本性は怖いですよ。

          サンドラは、「警察です」という一言で電話主が刑事だと思い込み、どこの署の人間か、相手が刑事であるという証明を得ること無く、立ち会いもない捜査に加担していきます。

          他の人々にもサンドラの思い込みが伝染し、加えてそれぞれが抱える後ろめたさもあり、架空の刑事の嘘に騙されていきます。

          ストリップの言葉の通り、ベッキーは服を脱がされ、恥辱を受けます。自称刑事の指示により、何人もの人が代わる代わる操作に加担させられます。サンドラの婚約者であるニールスまで参加します。全く関係ない人を店の事務所に入れるってどうなの?って感じですが、サンドラは意に介さないのです。明確には描かれていませんが、実際の事件を考慮に入れれば、ニールスには指示による膣の「検査」、オーラルセックスもさせられたようです。見ていて辛いですが、ここで怖いのは、電話越しの指示を何の疑いもなく実行していく人々の無知ですよ。現場に現れない刑事なんて怪しすぎますよ。「お前ら馬鹿じゃねーの!?」って感じですが、ただこれには納得できる理由があるんですね。

          今日のアメリカは生活していくのも大変な人が多く、殊に郊外は職に就いている人の殆どが正社員ではありません。2012年から2013年にかけてのアメリカ映画には、「サバイバル」というテーマが大きく根ざしていたように思えます。

          『ハッシュパピー』、『エリジウム』、『ワールドウォーZ』、『ゼロ・グラヴィティ』、『キャプテン・フィリップス』など。

          特に『キャプテン・フィリップス』の冒頭、トム・ハンクス演じるフィリップス船長のセリフが象徴的でした。

          「今のアメリカは本当に厳しい」

          今作に登場する人々にとっては、アルバイトでも大切な職なのです。地方には仕事がありませんし、ファストフードの時給も日本より数段低いです。ここら辺は『ファストフード・ネイション』が詳しいですね。そんな彼らが、「協力しないと為にならないよ」と、自称刑事に言われたら切迫するのも無理はないでしょう。加えて彼らの多くは高校卒業程度の教育しか受けていません。「おかしいけど、何かあったら自分が困る・・・・」


          最も恐ろしいのは、この事件で最も責任があるであろうサンドラが、あたかも自分が被害者であるかのように振舞っていること。テレビにも出演し、インタビュアーからの「あなたが判断を誤らなければ、ベッキーはあんな目に遭わなかったんじゃないですか?」という問い詰めにも、「私も被害者です」と堂々と発言するサンドラの怖さ。ゾッとしますよ。

          人間の怖さ、脆さが露呈されるシチュエーション・スリラー。観る価値ありです。

          評価はA+

          『シュガーマン 奇跡に愛された男』

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            南アフリカのケープタウン。海岸沿いを走る車の中から、気怠くて哀愁のある曲が流れてくる。辛い現実から逃避するように麻薬を求める男の歌。

            カットが切り替わると一人の男がインタビューに答えている。伝説のミュージシャン「シュガーマン」という男について。

            この映画は、未だに南アフリカで伝説的な人気を誇りつつも、全く謎の存在として語り継がれているミュージシャン、「シュガーマン」の姿を追い求めるドキュメンタリーだ。

            映画は音楽業界の関係者とファンのインタビューで構成され、シュガーマンという男についての昔話で構成される。

            シクスト・ロドリゲスという名前のミュージシャン、シュガーマン。この言葉が意味するのは薬の売人だ。シュガーマンは街で見聞きしたことをそのまま歌にしていたようで、彼の歌から感じられる哀愁は当時のデトロイトを象徴しているように思える。伝説的に語り継がれている一方で、現在では「死んだのではないか」、とまで噂されており、

            彼を担当したプロデューサーが「笑っちまうほどに悲しいんだ」と評しているとおり、彼の歌には悲しみと虚しさが滲み出ている。

            時代を自嘲的に歌っている彼の歌は、アメリカン・ニューシネマに漂っていた雰囲気に似たものを感じられる。とあるレコード店のオーナーは語る「彼はちょっとした反抗のシンボルだった」「レコードのジャケットはヒッピー風だったよ」

            歌の中で彼は常に孤独であり、時代に取り残された若者の悲しさが印象的だ。

            「ザ・エスタブリッシュメント・ブルース」というLPが与えた影響は甚大なもので、「ザ・コールド・ファクト」と併せて、南アフリカにおける反抗のシンボルとなった。海外に対して鎖国的な政策をとっていた当時の南アフリカに住む人々の心を解放したのだ。アパルトヘイトの批判が懲役3年だった時代に、オランダ系白人のミュージシャンたちがロドリゲスの歌をカヴァーし始めたことで、国民に反抗心が浸透していった。本人が全く予期していない形で、地球の裏側で大反響を産んでいた。しかしロドリゲスは売れない歌手として消えていった。体制に反抗しつつも結局は負けてしまったヒッピーたちのように。

            彼はどこにいるのか?いよいよシュガーマン探しが始まる。

            彼のLPには彼に関する情報が全く掲載されていなかった。南アフリカの人々は、彼は当然アメリカでも有名だと思っていたのだから驚きだ。なので書いた歌詞から想像するしかなかった。しかし当然彼がどこにいるのか分かるはずがなかった。

            ロドリゲス探しは金を追うことから始まった。死者の印税はどこに行くのか?これが非常に不明瞭だったので、追いようがないことがわかる。そこでレコード会社の元社長にインタビューをするも、彼の情報は一向につかめない。

            「もうダメか・・・・」と諦めかけた時に、歌詞にあった「ディアボーン」という街がヒントになる。

            その街には『コールド・ファクト』の共同プロデューサーがいたのだった。ここからロドリゲス探しは大きな動きを見せる・・・・。

            この映画は私が今までに見たドキュメンタリーでも異質なものだった。アメリカで全く売れていなかったミュージシャンが、今でも南アフリカのシンボルになっている。こんなにロマンがある話は珍しい。


            彼が活動したのは1970年代のデトロイト。この時代は『グラントリノ』で描かれたように「日本車の浸食による自動車産業の没落」の時代だ。加えて1967年には「デトロイト暴動」が起こっていたので、「ホワイトフライト」つまり白人の郊外への逃亡が起こった後だ。企業は社員を大量解雇、下請などの関連企業は倒産が相次ぎ、市街地の人口流出が深刻となった。同時に、ダウンタウンには浮浪者が溢れ、治安悪化が進んだ(インナーシティ問題と呼ばれる)時代だった。若者には仕事も希望もなく、鬱屈した感情をドラッグや暴力にぶつけていた時代だ。『ロボコップ』の舞台となったのもこの頃のデトロイトだ。

            このドキュメンタリーには「拝金主義の否定」というテーマが込められている。アメリカ映画では定番のテーマだが、現実の社会では拝金主義が勝利してきた結果、1%の大金持ちたちに苦しめられる99%の人々おというアメリカの構図が出来上がった。現代アメリカに通じる70年代のデトロイトの疲弊した時代の敗残者としてごく一部で語り継がれてきた男の、南アフリカでの知られざる人気は、現在の生活の厳しいアメリカ国民に訴えるものがあったのだろう。応援される気持ちになることがよくわかる。今作のアメリカ公開は2012年だが、2013年の映画のテーマで印象的だったのは、「サバイバル」だった。『ハッシュパピー バスタブ島の少女』、『エリジウム』、『キャプテン・フィリップス』、『ゼロ・グラヴィティ』など。厳しい状況から逃げずに立ち向かう、というテーマが込められた作品が特に多い年だったように思える。これは困窮するアメリカ国民の生活を応援する思いが込められているのだろう。

            そしてもう一つのテーマが「アメリカン・ドリーム」だ。今年になってこの作品が公開されたことには、やはり疲弊したアメリカとの関係性が見える。アメリカン・ドリームを実現する人はほんのひと握りだ。しかし彼の人生は日々を一生懸命に生きて、いつの日かアメリカン・ドリームを実現しようと生きる人々を勇気づけたことだろう。そしてシュガーマンは裕福になったわけでもない。一瞬の夢を味わい、彼は住み慣れたデトロイトで市井の人々と同じように生きていく・・・・。

            映画の後半で起こる奇跡のような出来事に、熱狂すること間違いなしの傑作。

            評価はS

            アカデミー賞受賞も頷ける。
             


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