ハリウッドにおける男性優越主義と「ニュー・フェミニズム」の萌芽(全3回/第1回)

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    今年ももうすぐ終わり。映画界は年末にかけてアカデミー賞一色に染まるけれど、今年の2月に行われた第87回アカデミー賞は、2015年におけるハリウッドの流れをモロに暗示していたので、ここ数年の他の年と比べても、かなり意味のある年だったように思える。

    今年の2月に開催された第87回アカデミー賞授賞式は、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(15)の最多4部門受賞や、『セッション』(14)の3部門受賞など、アート系で玄人好みな映画が賞レースを賑わせたことで話題を呼んだ。でも、この授賞式で最も話題を集め、そして議論を呼んだのは、リチャード・リンクレーター監督作品『6才のボクが、大人になるまで。』(14)での名演によってアカデミー賞助演女優賞を受賞した、パトリシア・アークエットの受賞スピーチにおける最後の一節だった。

    「命を授けてきた全ての女性、そして全てのアメリカの納税者、市民の皆さん、我々は人々の平等のために戦ってきました。今度は、私たちアメリカの女性が賃金と権利の平等を獲得する時です」

    パトリシアは後日に出演したテレビ番組で、「同じ時間内で白人男性が1ドル稼ぐのに対して、ラテン系女性は55セント。黒人女性は64セントしか稼げていない」ことを補足して、アメリカにおける男女間の賃金格差の是正を訴えた(※ちなみに、2013年の調査結果によると、白人男性を基準とした場合の白人女性の賃金は、約2割程少ない賃金になる)けど、彼女のスピーチにはもうひとつの狙いがあった。それは、ハリウッドにおける男女間の賃金格差を問題提起すること。

    振り返ってみれば、パトリシアのスピーチに、女優としても活躍する歌手のジェニファー・ロペスや、大女優のメリル・ストリープが歓声を上げる姿を見て、多くの人々は疑問に思ったはず。ショービズの頂点であり、かつリベラルなハリウッドで活躍して大金をもらっているはずの彼女たちが、なぜあれほどの反応を見せたのかと。意外に聞こえるかもしれないけど、ハリウッドには明確な男女格差がある。そしてその事実は、長きに渡って黙認されてきた。

    ハリウッドにおける男女格差の一例を紹介すると、『マンマ・ミーア』(08)や『レ・ミゼラブル』(12)で知られるアマンダ・セイフライドは、あるインタビューの中で、「数年前に私が出演したある大作の話なんだけど、私が受け取ったギャラは共演した主演俳優の10%だったわ」と告白している。

    また、サンディエゴ州立大学に拠点を置く「Center for the Study of Women in Television and Film」の研究発表によれば、2014年で最もヒットした作品のうち、女性が主人公の作品はわずか12%で、女性主人公の割合は、2013年からは3%、2002年からは4%減少したらしい。助演でも女性の役は少なくて、主要キャラクターに占める割合は29%。セリフのある役の割合は30%とのこと。これは2013年と同じ数字だけど、2002年からはたった2%しか伸びていなくて、ハリウッドにおける女性の地位向上が実現されていないことを如実に物語っている。

    女優だけではなく、製作スタッフも格差に苦しんでいる様子。Indiewireによると、インディペンデント映画の祭典として知られるサンダンス映画祭で、2002年から2012年にかけて上映された映画に携わった11,197人(監督、脚本家、プロデューサー、撮影監督、編集者)のうち、女性が占めるのは29.8%。しかも、映画の規模が大きくなればなるほど、作品に携わる女性の数は減っていく傾向にあるとのこと。そして、2002年から2012年の間で毎年最も成功した100本の映画を監督した映画監督の中で、男性監督の数が625人だったのに対して、女性監督はたった41人だった。つまり、監督業では約15倍の男女格差があることになる。

    こうしたハリウッドにおける男女格差は、長きに渡って議論の的にされることはなかった。80年代においては、アメリカ国内における女性の社会的地位向上が進んだことと並行して、ジェニファー・ビールス主演のダンス映画『フラッシュダンス』(83)や、シガニー・ウィーバーをスターダムに押し上げたSFアクション『エイリアン』シリーズ(ちなみに、エイリアンの頭の形は男性器のメタファーとされている)などの女性を主人公とした作品が多く製作されたことがあった。これらの作品は時代とリンクした、ハリウッドにおけるフェミニズムを象徴するものだったが、90年代以降はこの動きが推し進められることはないまま、先述の数字が物語るように、今に至るまで停滞・悪化の様相を呈してきたというわけ。

    しかし、アカデミー賞助演女優賞という認めざるを得ない功績を上げたパトリシアのスピーチが持つ力は大きかった。全世界が同時に彼女の声を聞き、ハリウッドにおける男性優越主義を知るきっかけを得た。そして、先述のメリルや、イギリスの大女優ヘレン・ミレン、若手実力派のキャリー・マリガン、キーラ・ナイトレイ、マギー・ギレンホール、カーラ・デルヴィーニュらも呼応し、それぞれの視点で映画産業における女性の窮状や性差別について声を上げるようになった。そして偶然なのか、彼女たちが声を上げ始めた今年2015年では、「男性優越主義に挑む女性の戦いと勝利」を描いた作品が次々に公開されており、ハリウッドにおける「ニュー・フェミニズム」が芽生えつつある。

    第2回となる次回では、この「ニュー・フェミニズム」の象徴とも言える作品で、2015年の最高傑作との呼び声も高い『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)と、同作を全米興行収入で上回ったことで話題を呼んだ『ピッチ・パーフェクト2』(15)について考察する。

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